第3話 写真の中の山――みねちゃんとの出会い

信州よりみち物語

古い木箱の中から見つかった、一枚の写真。

写っていたのは、山あいの景色だった。

遠くには大きな山。
手前には細い道と、古い石垣。
そして写真の端には、小さな祠のようなものが見える。

「これ、どこだろう」

よりみちくんが写真を何度も見返す。

わきみちくんは地図を広げた。

「安曇野の西側っぽいけど……」

かなちんも写真をのぞき込む。

「今と景色が違うから、すぐには分からないね」

さよちゃんは写真の裏を見た。

そこには、前に読んだ文字とは別に、
薄く、もう一行だけ書かれていた。

『山の番人に会えたら、その先へ。』

「山の番人?」

よりみちくんが首をかしげる。

こまちゃんはその言葉を聞いた瞬間、
ピンクのバンダナを揺らしながら、ぴょんと立ち上がった。

「こまちゃん、何か知ってるのかな?」

かなちんが笑う。

こまちゃんは少し先へ走り、
また振り返った。

「やっぱり案内する気だね」

わきみちくんが言った。

「行こう!」

よりみちくんは迷わなかった。

四人と一匹は、
山のほうへ続く道を歩き始めた。

田園の景色は少しずつ変わり、
木々が増え、
川の音が近くなってくる。

午後の光が葉の間から差し込み、
道の上にまだら模様を作っていた。

「静かだね」

さよちゃんが言う。

「でも、なんか気持ちいい」

かなちんもうなずく。

そのとき。

ガサッ。

今度は、こまちゃんがぴたりと止まった。

四人も足を止める。

木立の向こうから、
ゆっくりと何かが現れた。

大きな体。
しっかりした脚。
少し丸みのある耳。

そして、やさしそうな目。

「……カモシカ?」

よりみちくんが小声で言った。

そのカモシカは、
こちらをじっと見つめていた。

逃げるわけでもない。
近づいてくるわけでもない。

ただ静かに立っている。

かなちんがそっと言った。

「きれい……」

こまちゃんは怖がる様子もなく、
そのカモシカのほうへ数歩近づいた。

するとカモシカは、ふっと首を傾けた。

まるで、
こまちゃんを知っているみたいだった。

「もしかして……」

さよちゃんが写真を取り出す。

写真の端。

小さな祠のそばに、
ぼんやりと動物のような影が写っていた。

「これ……この子じゃない?」

わきみちくんも写真を見る。

「いや、同じ個体ってことはないだろうけど……」

「でも、昔からこの辺にカモシカがいたのかも」

かなちんが言った。

すると、そのカモシカは突然ゆっくり歩き始めた。

そして数メートル先で止まり、
こちらを振り返る。

よりみちくんが笑った。

「今度はこの子が案内してくれるみたいだよ」

「今日は案内役が多いね」

さよちゃんも笑った。

カモシカについていくと、
やがて小さな沢に出た。

その先には、
写真に写っていたものとよく似た石垣があった。

「ここだ!」

よりみちくんが声を上げる。

さらにその先には、
古い小さな祠。

そして祠の脇には、
木でできた札が一枚残っていた。

文字はかなり薄れていたが、
なんとか読むことができた。

『山を越える者は、道だけを見るな。
風を聞き、水を見て、生きものの声に気づけ。』

四人はしばらく黙って、その言葉を見つめた。

わきみちくんが静かに言う。

「なんか、僕たちの旅にぴったりだね」

かなちんもうなずく。

「景色だけじゃなくて、その場所にあるもの全部を見るってことかな」

よりみちくんは、うれしそうに笑った。

「ますます面白くなってきた!」

そのとき、
カモシカが小さく鼻を鳴らした。

「名前、つけようか?」

さよちゃんが言う。

みんなで考えていると、
かなちんがふと山の峰を見上げた。

「山の峰にいたから……“みねちゃん”ってどう?」

カモシカは、
ゆっくりこちらを見た。

そして一歩だけ近づいた。

「決まりだね」

よりみちくんが笑う。

こうして、
四人とこまちゃんに、
新しい仲間が加わった。

みねちゃん。

山の静けさを知り、
人が気づかないものを、
そっと教えてくれる存在。

帰り道、
よりみちくんはもう一度、
古い写真を見た。

そして気づく。

写真の隅に、
今まで見落としていた小さな鳥の姿があることに。

白と茶色の羽。
丸い体。

さよちゃんも気づいて、目を細める。

「この鳥……」

わきみちくんが言った。

「次は、山のもっと高いところかもしれないね」

よりみちくんは笑った。

「じゃあ次は、らいちゃんかな」

夕暮れの山に、
風が静かに吹き抜けた。

――第3話・終

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