安曇野の小さな水辺で出会った四人は、そのまま一緒に歩くことになった。
よりみちくんは相変わらず先頭を歩き、気になる道を見つけるたびに足を止める。
「ねえ、こっちも行ってみようよ!」
「また?」
さよちゃんは笑いながらも、ちゃんと後をついていく。
わきみちくんは地図を開きながら、
「その道、たぶん林のほうへ抜けるよ」
と静かに言った。
かなちんは、道端に咲く花を見つけてはしゃがみ込み、写真を撮っている。
四人で歩く時間は、不思議なくらい自然だった。
まるで、ずっと前から一緒に旅をしていたみたいに。
しばらく進むと、道は少しずつ細くなっていった。
両側には草木が増え、町の音も遠くなっていく。
「静かだね」
かなちんが小さく言った。
「こういうところ、好き」
わきみちくんが答える。
そのとき。
カサッ。
草むらの中で、小さな音がした。
よりみちくんが立ち止まる。
「今、何かいた?」
「鳥じゃない?」
さよちゃんが辺りを見回す。
もう一度。
カサカサッ。
今度は、はっきり聞こえた。
そして次の瞬間。
白くて細長い小さな動物が、草むらからひょこっと顔を出した。
「あっ!」
かなちんが声を上げる。
小さな丸い耳。
つぶらな瞳。
ふわふわの白い毛。
首元には、なぜか鮮やかなピンクのバンダナ。
「かわいい……!」
さよちゃんが思わず近づこうとすると、その子はサッと草むらへ隠れた。
「オコジョかな?」
わきみちくんが言う。
よりみちくんは目を輝かせた。
「さっきの足あと、この子だったんだ!」
少し待っていると、白いオコジョはまた顔を出した。
今度は、ほんの少しだけ近い。
かなちんがしゃがみ込む。
「大丈夫だよ。何もしないからね」
優しく声をかけると、その子は首をかしげた。
そして――
とことこ。
ほんの少しだけ、かなちんのほうへ近づいてきた。
「わあ……!」
かなちんは息をのんだ。
ところが、その直後。
オコジョはくるりと向きを変え、細い道の奥へ走り出した。
「えっ、どこ行くの?」
数メートル先で立ち止まり、こちらを振り返る。
「……ついて来いってことかな?」
よりみちくんが言った。
わきみちくんも、その様子をじっと見ていた。
「たぶん、そうだと思う」
「じゃあ行こう!」
「やっぱり行くんだ」
さよちゃんが笑う。
四人は、白いオコジョの後を追った。
道は次第に山際へ近づいていった。
大きな木の根が張り出し、ところどころ石も増えている。
白いオコジョは軽やかに進み、時々こちらを振り返っては、
「ちゃんと来てる?」
とでも言いたげに待っていた。
やがて、その子は古い石垣の前で止まった。
草に覆われていて、注意して見なければ気づかない場所だった。
「ここ?」
よりみちくんが近づく。
石垣の間に、小さな木箱のようなものが見えた。
「何だろう」
わきみちくんが慎重に草をよける。
そこには、古びた小さな箱が置かれていた。
鍵はかかっていない。
四人は顔を見合わせた。
「開けてみる?」
かなちんが少し緊張した声で言う。
よりみちくんは、ゆっくりふたを持ち上げた。
中に入っていたのは――
一枚の古い写真。
そこには、今いる場所とよく似た景色が写っていた。
そして写真の裏には、小さな文字が書かれていた。
「また、みんなでここへ来よう。」
しばらく、誰もしゃべらなかった。
「誰が置いたんだろう」
さよちゃんがつぶやく。
「昔ここに来た人たちかな」
かなちんは写真を大切そうに見つめた。
わきみちくんは周囲を見渡した。
「もしかしたら、この場所にも物語があるのかもね」
よりみちくんが笑う。
「じゃあ、調べてみようよ!」
その声を聞いた白いオコジョは、うれしそうにその場をくるくる回った。
「この子、本当に案内してくれたんだね」
かなちんが言った。
「名前、どうする?」
さよちゃんが尋ねる。
よりみちくんは少し考えた。
「小さくて、ちょこちょこ動いて……」
かなちんが笑う。
「“こまちゃん”ってどう?」
白いオコジョは、ぴょんと跳ねた。
「気に入ったみたい!」
こうして、四人に新しい仲間が増えた。
こまちゃん。
小さな体で、誰よりも早く道の先を見つける、
元気いっぱいの案内役。
そして四人はまだ知らなかった。
古い写真に写っていた場所が、
これから始まる“信州の小さな謎”の、
最初の入り口だったことを。
――第2話・終
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