古い木箱の中から見つかった、一枚の写真。
写っていたのは、山あいの景色だった。
遠くには大きな山。
手前には細い道と、古い石垣。
そして写真の端には、小さな祠のようなものが見える。

「これ、どこだろう」
よりみちくんが写真を何度も見返す。
わきみちくんは地図を広げた。
「安曇野の西側っぽいけど……」
かなちんも写真をのぞき込む。
「今と景色が違うから、すぐには分からないね」
さよちゃんは写真の裏を見た。
そこには、前に読んだ文字とは別に、
薄く、もう一行だけ書かれていた。
『山の番人に会えたら、その先へ。』
「山の番人?」
よりみちくんが首をかしげる。
こまちゃんはその言葉を聞いた瞬間、
ピンクのバンダナを揺らしながら、ぴょんと立ち上がった。

「こまちゃん、何か知ってるのかな?」
かなちんが笑う。
こまちゃんは少し先へ走り、
また振り返った。
「やっぱり案内する気だね」
わきみちくんが言った。
「行こう!」
よりみちくんは迷わなかった。
四人と一匹は、
山のほうへ続く道を歩き始めた。
田園の景色は少しずつ変わり、
木々が増え、
川の音が近くなってくる。
午後の光が葉の間から差し込み、
道の上にまだら模様を作っていた。
「静かだね」
さよちゃんが言う。
「でも、なんか気持ちいい」
かなちんもうなずく。
そのとき。
ガサッ。
今度は、こまちゃんがぴたりと止まった。
四人も足を止める。
木立の向こうから、
ゆっくりと何かが現れた。
大きな体。
しっかりした脚。
少し丸みのある耳。
そして、やさしそうな目。
「……カモシカ?」
よりみちくんが小声で言った。
そのカモシカは、
こちらをじっと見つめていた。
逃げるわけでもない。
近づいてくるわけでもない。
ただ静かに立っている。
かなちんがそっと言った。
「きれい……」
こまちゃんは怖がる様子もなく、
そのカモシカのほうへ数歩近づいた。
するとカモシカは、ふっと首を傾けた。
まるで、
こまちゃんを知っているみたいだった。

「もしかして……」
さよちゃんが写真を取り出す。
写真の端。
小さな祠のそばに、
ぼんやりと動物のような影が写っていた。
「これ……この子じゃない?」
わきみちくんも写真を見る。
「いや、同じ個体ってことはないだろうけど……」
「でも、昔からこの辺にカモシカがいたのかも」
かなちんが言った。
すると、そのカモシカは突然ゆっくり歩き始めた。
そして数メートル先で止まり、
こちらを振り返る。
よりみちくんが笑った。
「今度はこの子が案内してくれるみたいだよ」
「今日は案内役が多いね」
さよちゃんも笑った。
カモシカについていくと、
やがて小さな沢に出た。
その先には、
写真に写っていたものとよく似た石垣があった。
「ここだ!」
よりみちくんが声を上げる。
さらにその先には、
古い小さな祠。
そして祠の脇には、
木でできた札が一枚残っていた。
文字はかなり薄れていたが、
なんとか読むことができた。
『山を越える者は、道だけを見るな。
風を聞き、水を見て、生きものの声に気づけ。』
四人はしばらく黙って、その言葉を見つめた。

わきみちくんが静かに言う。
「なんか、僕たちの旅にぴったりだね」
かなちんもうなずく。
「景色だけじゃなくて、その場所にあるもの全部を見るってことかな」
よりみちくんは、うれしそうに笑った。
「ますます面白くなってきた!」
そのとき、
カモシカが小さく鼻を鳴らした。
「名前、つけようか?」
さよちゃんが言う。
みんなで考えていると、
かなちんがふと山の峰を見上げた。
「山の峰にいたから……“みねちゃん”ってどう?」
カモシカは、
ゆっくりこちらを見た。
そして一歩だけ近づいた。
「決まりだね」
よりみちくんが笑う。
こうして、
四人とこまちゃんに、
新しい仲間が加わった。
みねちゃん。
山の静けさを知り、
人が気づかないものを、
そっと教えてくれる存在。

帰り道、
よりみちくんはもう一度、
古い写真を見た。
そして気づく。
写真の隅に、
今まで見落としていた小さな鳥の姿があることに。
白と茶色の羽。
丸い体。
さよちゃんも気づいて、目を細める。
「この鳥……」
わきみちくんが言った。
「次は、山のもっと高いところかもしれないね」
よりみちくんは笑った。
「じゃあ次は、らいちゃんかな」

夕暮れの山に、
風が静かに吹き抜けた。
――第3話・終
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