思考を拾う老人|第10話 余白の力|頑張りすぎない方がうまくいく理由

思考を拾う老人
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詰め込まないことで、満ちていく

それから
しばらく時間が過ぎた。

私は
以前と同じ生活をしていた。

朝、ノートを書く。

少しだけ文章を書く。

仕事に行く。

夕方、公園に立ち寄る。

特別なことは
何も起きていない。

だが
どこか違っていた。

以前の私は
何かを増やそうとしていた。

収入。

知識。

方法。

成功法則。

何かを足せば
人生が変わると思っていた。

だが今は
少し違う考えになっていた。

私は
ノートにこう書いたことがある。


増やすより
整える。


その言葉は
不思議としっくりきた。

その日の夕方。

私は
いつもの公園に行った。

老人は
ベンチに座っていた。

私は隣に座った。

「最近
何も変わっていません」

私が言うと
老人はうなずいた。

「そうか」

「収益も
大きく増えていません」

老人は
少し空を見上げた。

「それでいい」

私は少し笑った。

「焦っていないんです」

老人は
静かに言った。

「余白だ」

私は
その言葉を繰り返した。

「余白?」

老人は
大きな木を見上げた。

「この木は
毎日伸びている」

私は
枝を見上げた。

たしかに
昨日と同じように見える。

だが
少しずつ変わっているのだろう。

老人は続けた。

「人は
詰め込みすぎる」

「だから
苦しくなる」

私は
その言葉をゆっくり考えた。

たしかに
昔の私はそうだった。

新しい方法。

新しい知識。

新しい挑戦。

それらを
次々に増やそうとしていた。

だが今は
違う。

やることは
あまり増えていない。

ただ
整ってきている。

老人は
ベンチの前を見た。

あの芽は
すっかり小さな木になっていた。

まだ細いが
しっかり立っている。

「余白があると
人は続く」

私は
その木を見つめた。

無理に大きくなろうとしていない。

ただ
そこにある。

老人は
立ち上がった。

帰るようだった。

歩き出す前に
老人は言った。

「整っている」

それだけだった。

私は
しばらくベンチに座っていた。

夕方の空は
ゆっくり色を変えている。

私は
ノートを取り出し
その日のページに書いた。


余白があると
人生は続く。


それは
静かな言葉だった。

だが
私は分かっていた。

人生は
急いで変えるものではない。

整えていくものだ。

そのとき私は
まだ知らなかった。

この静かな時間が
もうすぐ
大きな意味を持つことになるのを。

次の話▶
思考を拾う老人|第11話 老人が来ない日|一人で考える時間の大切さ

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