書き出した瞬間、整い始める
次の日の朝。
私は少し早く目が覚めた。
目覚ましが鳴る前だった。
窓の外はまだ
少し薄暗い。
布団の中で
ぼんやり昨日のことを思い出していた。
成功の種。
習慣。
信用。
時間。
あの三つの木の実が
なぜか頭に残っていた。
私はベッドから起き上がり
台所へ行った。
コーヒーを淹れる。
湯気がゆっくり立ち上る。
静かな朝だった。
ふと
昨日老人から渡された紙を思い出した。
私は財布の中から
その紙を取り出した。
少し折れ曲がっている。
そこには
たった一行だけ書かれていた。
毎朝十五分、頭の中を書き出せ。
私は少し笑った。
「そんなことで
人生が変わるわけがない」
そう思った。
だが
不思議なことに
その紙を捨てる気にはならなかった。
私は
テーブルの上にあった
古いノートを手に取った。
何年も前に買った
ほとんど使っていないノートだ。
ペンもあった。
私は
とりあえずノートを開いた。
何を書けばいいのか
分からない。
しばらく
白いページを見ていた。
それから
思いつくまま書いてみた。
将来のお金が不安。
再雇用で給料が減った。
このままでいいのか。
副収入があった方がいい気がする。
でも何をすればいいのか分からない。
五分ほどで
書くことがなくなった。
私は時計を見た。
まだ
五分しか経っていない。
十五分は
意外と長かった。
仕方なく
また書いた。
自分は何をしてきたんだろう。
もっと早く考えるべきだった。
今からでも何かできるだろうか。
十五分が経った。
私は
ペンを置いた。
特に何も
変わった感じはしなかった。
ただ
少しだけ
頭の中が軽くなった気がした。
その日の夕方。
私はまた
公園に行った。
老人は
いつものベンチに座っていた。
私は
隣に座った。
「書いてみました」
老人は
こちらを見た。
「何を」
「思考です」
老人は小さくうなずいた。
「どうだった」
私は少し考えた。
「特に何も
変わりませんでした」
老人は
静かに笑った。
「最初は
それでいい」
私は少し拍子抜けした。
老人は続けた。
「思考は
散らかっている」
「書くと
床に落ちる」
私は黙って聞いていた。
老人は
ベンチの足元を見た。
「拾えば
整えられる」
私は
昨日の言葉を思い出した。
思考を拾う。
老人は立ち上がった。
帰るようだ。
歩き出す前に
老人は言った。
「三日続けろ」
それだけだった。
私は
その背中を見送った。
夕方の風が
大きな木の葉を揺らしている。
三日。
それくらいなら
できるかもしれない。
私は
そんなことを思いながら
ベンチに座っていた。


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