思考を拾う老人 第2話|成功の種

気づきの書箱
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育てるものだけが、それを持つ


次の日も私は
その公園に立ち寄った。

理由は分からない。

ただ
昨日の老人の言葉が
頭から離れなかった。

思考を拾う。

そんな言い方を
私は今まで聞いたことがなかった。

夕方の空は
昨日より少し赤かった。

大きな木の葉が
ゆっくり揺れている。

ベンチを見ると
老人はすでに座っていた。

相変わらず
静かな姿だった。

「こんばんは」

私が言うと
老人は軽くうなずいた。

「今日も来たな」

「なんとなくです」

私はそう答えた。

本当は
昨日の続きを聞きたかった。

老人は
少し空を見上げてから
ポケットに手を入れた。

そして
小さな布袋を取り出した。

古びた袋だった。

老人は
袋の口をほどくと
手のひらに三つの木の実を出した。

どんぐりのような
小さな木の実だった。

老人は
それをベンチの上に並べた。

「これは何ですか」

私が聞くと
老人は静かに答えた。

「成功の種だ」

私は思わず笑った。

「そんなもので成功するなら
誰も苦労しませんよ」

老人は
ゆっくりうなずいた。

「その通りだ」

私は少し驚いた。

老人は続けた。

「だから
誰も育てないのだ」

私は黙った。

老人は
一つ目の木の実を指で示した。

「習慣」

次に
二つ目の木の実。

「信用」

そして
最後の木の実。

「時間」

老人は
三つの木の実を
静かに見つめていた。

「成功は
この三つで育つ」

私は首をかしげた。

「どういうことですか」

老人は言った。

「習慣は
毎日の水だ」

「信用は
土になる」

「時間は
太陽だ」

私はその言葉を
ゆっくり考えていた。

老人は
小さく笑った。

「だが
ほとんどの人は
水を三日でやめる」

私は思わず苦笑した。

心当たりがあった。

本を買う。

三日続く。

やめる。

また何か探す。

そんなことを
何度も繰り返していた。

老人は
木の実を袋に戻した。

そして言った。

「成功は
特別なものではない」

「ただ
育てた人のところに
来るだけだ」

夕方の風が
少し冷たくなっていた。

私は
ベンチに座ったまま
木の葉を見上げた。

習慣。

信用。

時間。

たしかに
どれも特別なものではない。

だが
私はそのどれも
育ててこなかった気がした。

老人は
静かに立ち上がった。

帰るのだろう。

歩き出す前に
老人は振り返った。

そして
穏やかな声で言った。

「まず
水をやれ」

それだけだった。

私は
しばらくベンチに座ったまま
考えていた。

成功の種。

そんなものが
本当にあるのだろうか。

だが
その日の帰り道。

私は
少しだけ思った。

もしかすると
あの老人は

本当に
思考を拾っているのかもしれない。

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