思考の整理箱③|第1話 人は正しさでは動かない

思考の整理箱

🌱 思考の整理箱③|正しさの前に、置くもの
仕事や人間関係の中で感じた小さな違和感を、
六つの物語で静かに整理していく記録です。

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— 仕事の前に、人を置く—

思考の整理箱を、あらためて開けてみることにした。
正しさと尊重のあいだで揺れた、あの日のことから。

「すみません、確認が甘かったです。」

彼女はそう言って、資料を閉じた。

会議室は静かだった。
数字のズレは小さくない。
修正には時間がかかる。

私は深く息を吸った。

「ここ、事前にチェックできたよな?」

声は荒げていない。
責めるつもりもない。

事実を、事実として伝えただけだった。

「……はい。」

彼女の返事は短かった。


私は正しかった。

ミスはミスだ。
確認不足も事実だ。

上からは進捗を求められ、
現場では判断を迫られる。

間を埋めるのが自分の役目だと思っていた。

だから、正しく伝えた。

けれど――

帰り道、妙な違和感が残った。

彼女の「はい」は、
どこか閉じていた気がした。


翌日、彼女は必要なことしか話さなかった。

目も、あまり合わない。

私は焦った。

指摘は間違っていない。
でも、距離ができている。

そこで初めて考えた。

私は、ミスを見ていた。
でも、彼女を見ていただろうか。


数日後、似た場面があった。

私は、順番を変えた。

「最近、案件重なってるよな。きつくないか?」

彼女は少し間を置いてから言った。

「正直、少しだけ。」

その“少し”の奥に、本音があった。

私は続けた。

「今回の件、どういう流れだった?」

責めるためではなく、知るために聞いた。

彼女はゆっくり話し始めた。

事情があった。
焦りもあった。

私は、ようやく気づいた。

同じ“指摘”でも、
順番が違うだけで空気は変わる。


人は、正しさでは動かない。

自分が大切に扱われていると感じたとき、
初めて心が動く。

私はまだ、うまくできない日もある。

それでも、ひとつだけ決めている。

正しさの前に、相手を見る。

整理とは、消すことではなく、置き場所を決めること。

仕事の前に、人を置く。

それが、私なりの新しい始まりだった。

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